起業へ向けてパソコン・ノートPCを購入する場合、起業準備の段階、つまり個人事業の開業や法人の会社設立の前に購入をするケースが多くあります。
その際に、「起業前に買ったパソコン代金は経費になるのだろうか?」という疑問が生じます。
- 起業準備の段階で購入したパソコンは経費になるのか?
- 開業や会社設立前にパソコンを購入した場合は?
- 合同会社・株式会社設立時にパソコンを現物出資するときは?
ここでは、上記のような疑問を感じている方を対象に、小さな起業で開業前にパソコンを購入した場合の代表的パターンを整理しました。起業前にパソコンを購入するか迷っている方は参考にしてくださいね。
当記事は、2021年4月に加筆&再編集しましたが、主として2019年5月時点の情報を参考にしています。実際の経理&税務処理に際しては、最新の情報の確認、ご自身の責任においての選択、必要に応じて専門家のアドバイスを得て判断をお願いします。
営業開始までの準備期間に購入したパソコンは経費になるのか?
下記で説明するように、経費になるタイミングや方法に違いはありますが、基本的には営業開始までの準備期間に買ったパソコン代金は、多くの場合経費にできます。
では「どのくらい前に購入したものから対象となるのか」という点ですが、これは個々のケースの準備期間によります。小さな起業での判断基準としては、将来的に税務調査があった際にきちんと説明できるか?という視点です。
起業よりもあまりに長く前に購入したパソコンが、「営業開始の準備だったか?」と客観的に説明するのは難しい場合も想定されます。常識的&客観的に考えて開業準備期間と説明できる期間(一般的には1年くらいまで)で考えるようにしましょう。
尚、下記の書くパターンの理解には、減価償却費に関する基本的な理解が必要になります。「減価償却って何?」という方は、当記事の最後の部分に国税庁サイトの参考ページ(減価償却費関連)をまとめてあるので、参考にしてくださいね。
個人事業の開業前にパソコンを購入した場合

営業開始前にパソコン・ノートPCを購入する場合、パソコンの取得価額によって経理処理が違ってきます。
パソコンが費用となっていく方法としては、下記の(A)~(D)の4つの方法が考えられますが、下記の表のようにパソコンの取得価額によって利用できる方法が限られます。そして、利用する方法によって、費用となるタイミングが異なります。
【個人事業主が開業前にパソコンを購入した際の経理処理例】
パソコンの 取得価額 |
(A) 開業費 |
(B) 一括償却資産 |
(C) 少額固定資産 |
(D) 固定資産 |
10万円未満 | 〇 | X | X | X |
10万円~20万円未満 | X | 〇 | 〇 | 〇 |
20万円~30万円未満 | X | X | 〇 | 〇 |
30万円以上 | X | X | X | 〇 |
パソコンの取得価額を判断するとき、消費税の免税業者であれば、税込金額にて判断することになります。
パソコンの価額が10万円未満の場合
HPやDellでは、10万円未満でノートPCの選択肢が豊富ですから、パソコンの取得価額が10万円未満のケースも多くあります。
(A) 開業費として計上する
起業準備の段階で、開業前にパソコンを取得した場合には、開業費として処理をしていきます。
- パソコンの取得価格を、「開業費」に計上します。開業費は、会計科目としては繰延資産という資産科目になります。
- 開業費は5年で均等償却か、好きなタイミングで好きな金額を経費にする任意償却かで費用となります。
任意償却を利用すれば、好きなタイミング費用化できます。例えば初年度など赤字の場合には償却せず、2年目以降の黒字になったタイミングで償却するという方法がとれます。
パソコンの価額が10万円以上20万円未満の場合
(B)(C)(D)の3つの選択肢があります。
(B) 一括償却資産として処理する
- パソコンの取得価格を、「一括償却資産」として計上します。
- 一括償却資産を3年度で均等償却します。
この方法は、青色申告でない場合でも利用できます。「月割り計算必要なく毎年3分の1を費用にできる」「償却資産税の対象に含める必要がない」という利点もあります。
(C) 少額減価償却資産の特例を使う
- この特例は、取得価額が10万円以上30万円未満の減価償却資産について、その年の経費にできるというものです。条件に注意(後述)。
- 開業初年度に、パソコンの取得価格を少額減価償却資産の取得費用として経費処理します。
この場合は、初年度の経費になりますから、初年度から黒字の場合にメリットがあります。
- 青色申告のみに適用
- 取得価額が30万円未満の資産に適用
- 合計で300万円まで
- 2022年(令和4年)3月31日までに取得した資産が対象
参考:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(国税庁タックスアンサー)
(D) 固定資産として計上する
- パソコンの取得価格を、「固定資産」として計上します。
- 固定資産は、法定耐用年数で減価償却を通じて費用となります。
- パソコンの法定耐用年数は、パソコンとして利用なら4年、サーバーとして利用なら5年です。
この場合は、4年~5年かかって費用化されていくことになります。
パソコンの価額が20万円以上30万未満の場合
この場合には、2つの選択肢があります。
(C) 少額減価償却資産の特例を使う
(D) 固定資産として計上する
パソコンの価額が30万円以上の場合
この場合は、1つのみの選択肢です。
(D) 固定資産として計上する
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会社設立より前にパソコンを購入した場合

開業費または固定資産として処理するパターン
基本的には上記で説明した個人事業主の場合と同様です。つまり、パソコンの取得価額によって、開業費、固定資産、一括償却資産、少額固定資産のいずれかで経理処理されます。
現物出資をするパターン
パソコンを現物出資するという選択肢もあります。
この場合には、現物出資されたパソコンは、金額によって消耗品費、固定資産、一括償却資産、少額固定資産のいずれかによって経理処理されます。
以下に、会社設立が2019年5月1日、決算期6月、資本金300万円、ノートPCの現物出資以外は現金出資、青色申告、定率法利用の場合で、ノートPCの現物出資の価額が異なる4つのパターンで、初年度の仕訳例を記します。
スマホの方は、横向きにしてご覧くださいね。
【例1:ノートPCの価額が8万円の場合】
この場合は、初年度に消耗品費として処理します。
2019年5月1日 出資時の仕訳
借方 | 貸方 |
現金 2,920,000 | 資本金 3,000,000 |
備品 80,000 |
2019年5月1日 パソコンを経費処理
借方 | 貸方 |
消耗品費 80,000 | 備品 80,000 |
【例2:ノートPCの価額が15万円の場合】
この場合は、一括償却資産、少額減価償却資産、固定資産のいずれかで経理処理します。
下記は、一括償却資産として処理した場合の初年度仕訳です。
2019年5月1日 出資時の仕訳
借方 | 貸方 |
現金 2,850,000 | 資本金 3,000,000 |
一括償却資産 150,000 |
2019年6月30日 パソコンの一括償却
借方 | 貸方 |
減価償却費 50,000 | 一括償却資産 50,000 |
【例3:ノートPCの価額が25万円の場合】
この場合は、少額減価償却資産または固定資産のいずれかで経理処理します。
下記は、少額減価償却資産の特例を利用した場合の初年度仕訳です。
2019年5月1日 出資時の仕訳
借方 | 貸方 |
現金 2,750,000 | 資本金 3,000,000 |
備品 250,000 |
2019年6月30日 少額減価償却資産の特例により減価償却
借方 | 貸方 |
減価償却費 250,000 | 備品 250,000 |
【例4:ノートPCの価額が35万円の場合】
この場合は、固定資産として経理処理します。
2019年5月1日 出資時の仕訳
借方 | 貸方 |
現金 2,650,000 | 資本金 3,000,000 |
備品 350,000 |
2019年6月30日 パソコンの減価償却
借方 | 貸方 |
減価償却費 29,167 | 減価償却累計額 29,167 |
初年度の減価償却費(定率法)の計算は、以下の通りになります。
減価償却費=取得価額 x 償却率x使用した月数/12ヵ月
350,000(取得価額) x 0.5(定率法4年の償却率) x 2/12=29,167
尚、実際の個々の経理処理においては、ご自身の責任あるいは専門家のアドバイスを得て経理処理をするようにしてください。
ノートPCの現物出資額は、出資時のノートPCの時価になります。
購入から出資までの期間が長いようであれば、例えばインターネットでの取引価格など、何らかの形で時価を説明できる根拠を残しておくようにします。
当ウェブマガジンのマリーが、合同会社設立にあたってノートPCを現物出資したときの体験については、以下の記事に記しました。同じような状況の方は参考にしてくださいね。
国税庁サイトの参考ページ(減価償却費関連)
上記で説明したパソコンの経理処理については、減価償却費に関する税法での扱いについての基礎的な理解が必要です。
多くの参考サイトがありますが、税法に関することはの基本情報の確認は、国税庁のタックスアンサーが便利で確実です。下記に、減価償却費に関する基本的なものを抜き出しました。まずは、下記1番の「減価償却費のあらまし」にある「減価償却の概要」を一読をおすすめします。
- 減価償却とは?:No. 2100 減価償却費のあらまし(国税庁タックスアンサー)
- 減価償却費の計算方法:No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)
- 定額法の償却率:別表第八 平成十九年四月一日以後に取得をされた減価償却資産の定額法の償却率表
- 定率法の償却率:別表第十 平成二十四年四月一日以後に取得をされた減価償却資産の定率法の償却率、改定償却率及び保証率の表
- 耐用年数:減価償却資産の耐用年数等に関する省令(財務省令)
- 少額減価償却資産とは?:No.5408 中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(国税庁タックスアンサー)
パソコンの耐用年数は、上記の5番の省令にある別表第一 機械及び装置以外の有形減価償却資産の耐用年数表で確認できます。
慣れないと見づらい表ですが、この表の下の方の種類が「器具及び備品」、構造または用途が「2. 事務機器及び通信機器」を参照します。
- サーバー用以外のパソコン:電子計算機の「パーソナルコンピュータ(サーバー用のものを除く。)の耐用年数が「四」となっているので4年です。
- サーバー用のパソコン:電子計算機の「その他のもの」の耐用年数が「五」になっているので5年です。
通常に使うノートPCであれば、税法上の耐用年数4年ということになります。
まとめ
上記の例からわかるとおり、個々の状況によって費用として処理できるタイミングは違ってきますが、起業・開業前にパソコンを購入した場合、最終的には費用として処理できることがわかります。
早めに必要なパソコンを手に入れて、起業に向けてのリサーチや手続き、ホームページの準備などを進めていけますね。いずれの場合でも、領収書や請求書などをきちんと保管しておくようにしましょう。
当記事が、起業に向けてパソコンを購入しようと考えている方の参考になれば幸いです!
起業にあたって、実際にどのPCメーカーのPCを選ぶとよいか?については、下記の記事を参考にしてくださいね。
また、いよいよ起業&会社設立という場合には、「会社設立日を決める」「法人口座開設の準備」など会社設立の前に対応しておきたいことがあります。下記の記事も参考にして、準備を進めてくださいね。
上記で見たように、パソコンの購入代金は、利用する経理処理によって、任意の時期、1年、または3年~5年にわたって経費処理をされていくことになります。
ビジネスで使うパソコンですから、ハイスペックのパソコンを購入するケースも多くあります。そのような場合にも、最終的には費用化できると理解すれば、無意味に節約するのではなく、多少金額は高くても「必要なパソコンを購入する」という判断ができますね。